労務管理

2022年最低賃金大幅引き上げ 解説&給与チェックの方法

※動画解説

 

特定社会保険労務士の石川です。

8月2日、厚生労働大臣の諮問機関である中央最低賃金審議会が、2022年秋から適用される最低賃金について、全国加重平均で31円を目安に引き上げるよう答申しました。

 

最低賃金大幅引き上げの背景

先日の記事で「2.5~3%程度の引き上げではないか」と予想していましたが、今回の目安額はパーセンテージに引き直すと3.3%増ということで、それを大きく上回る引き上げ幅となりました。

厚生労働省HPで新たにリリースされた答申目安額に関する公益委員の見解に目を通しましたが、やはり、円安やウクライナ情勢による急速な物価上昇を受け、今回過去最大の引き上げ幅が提示された模様です。

先日の記事でもお話ししましたが、今回提示された引き上げ額はあくまで目安額であり、最終決定までにはさらにいくつかのステップを経ることとなり、金額が変動する可能性はありますが、概ねこの金額近辺で決定される見通しです。

今回の引き上げ額がそのまま適用された場合における主要都道府県の最低賃金額がこちらです。

(出所)筆者作成

昨年までの東京都・神奈川県に加え、大阪府も今回初めて1,000円を超えることとなります。

このペースでいけば、来年には愛知県、再来年には京都府・兵庫県も1,000円超えとなるものと思われます。

今回の引き上げで全国加重平均は31円引き上げられて961円となる見通しですので、政府が目標として掲げる「2025年度までに全国加重平均1,000円」まであと39円となり、このペースでいくとおそらく2024年度には1年前倒しで達成されるものと予想されます。

 

企業・労働者は何をすればいいか

さて、最低賃金が過去最高の引き上げ幅となれば、従業員さんの賃金額について、見直し、すなわち引き上げが必要となる可能性が高まることとなります。

ですので、従業員さんの賃金額について、最低賃金を下回らないかどうか、8~9月の間にチェックしておく必要が出てきます。

時給制の場合は比較しやすいですが、月給制や日給制の場合も当然最低賃金法の規制を受けます。

月給制や日給制の場合は、所定労働時間で割った1Hあたりの賃金が最低賃金を下回ると最低賃金法4条1項違反となります。

この場合、50万円以下の罰金(地域別最低賃金および船員に適用される特定最低賃金を下回った場合)が科されることとなりますので、注意が必要です。

この比較の際、最低賃金と比較できる賃金は、すべての賃金が比較対象となるわけではありません。

最低賃金の比較において算入できない賃金が6種類あります。

【最低賃金と比較する賃金単価に算入できない賃金】

  1. 臨時に支払われる賃金(慶弔手当 etc.)
  2. 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与 etc.)
  3. 残業代
  4. 休日出勤分の賃金
  5. 深夜割増賃金
  6. 精皆勤手当・通勤手当・家族手当

つまり、基本給・住宅手当・職務手当・役職手当などが比較対象に算入できる賃金です。

企業としては、先ほど挙げた6種類の算入できない賃金を除いた給与額を月平均所定労働時間で割った数が最低賃金を下回ってしまう場合は、例年10月1日頃の最低賃金適用開始までに賃金の見直しを行いましょう。

【最低賃金と比較するための1Hあたり賃金の計算式】※月給制の場合

(月給-算入できない賃金)÷月平均所定労働時間

逆に労働者としては、同じように計算した賃金が、最低賃金を10月以降下回ってしまう場合は、職場に掛け合ってみるのがいいでしょう。

私も顧問先企業さんで10月以降引き上げが必要なケースがあるかチェックしてみたのですが、何社かありました。

人件費の増加は企業の損益に大きく影響するので、その顧問先企業さんへは頭出しとして早めにアナウンスしました。

皆さんの会社でも、自社の各従業員さんに対する賃金が、10月以降引き上げが必要かどうかチェックしてみてください。

また、扶養の範囲内で働きたいパート従業員さんがいる企業では、最低賃金引き上げによって時給が上がる場合、シフト(労働時間数)に見直しは必要かどうかについても、ぜひチェックしてみてください。

 

※最低賃金には2種類あり、これまで触れたのはうち地域別最低賃金というもので、もう1つ、一部業種に適用される特定(産業別)最低賃金というものがあります。地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金、両方が同時に適用される場合は、高い方の最低賃金額が適用されます

※その他、精神又は身体の障害により著しく労働能力の低い者などについて、都道府県労働局長の許可を受けることにより、最低賃金の減額の特例(一般の労働者より著しく労働能力が低いなどの場合に、最低賃金を一律に適用するとかえって雇用機会を狭めるおそれなどがあるため設けられている)を個別に受けることがあり、その場合は先ほど挙げた最低賃金から一定の割合で減額された金額が最低賃金として適用されます

 

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