電通・従業員の個人事業主(フリーランス)化・本当の狙いと他社への影響は?

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こちらの動画を観ながら読むとより読みやすいです

 

特定社会保険労務士の石川です。

電通が、2021年1月から従業員の3%にあたる約230人を個人事業主化すると発表しました。

今回は、この個人事業主化について、電通の狙いは何なのか、また、今回のような個人事業主化は今後他の企業でも進むのかについて、私見と法的な観点から解説します。

 

個人事業主化の概要

同社のプレスリリース日本経済新聞の記事によると、営業・制作・間接部門で働く一部の従業員が対象となり、電通を退職後、電通が設立したニューホライズンコレクティブ合同会社という会社と期間10年の業務委託契約を締結、電通社内の複数部署の仕事をするほか、同業を除く他社との間で業務委託契約を結ぶこともできるとのことです。

報酬面では、電通時代の給与を基にした固定報酬に加えて、実際の業務で発生した利益に応じたインセンティブが支払われるようです。

 

個人事業主化、本当の狙いは?

この個人事業主化について、電通は、別分野や新しい事業などに取り組むことが可能となり、「安心」と「チャレンジ」の両立をかなえる新しい仕組みだと説明しています。

このプレスリリースと新聞記事を読んで、私が感じたことは、大いなるツッコミを入れたいことと、一方で「電通ならこの方法が一番いいのかも」ということでした。

まず、大いなるツッコミを入れたいのは、「であれば副業・兼業容認でいいのでは?」ということです。

今回の電通による個人事業主化のメリットは、

  1. 電通内の業務をこなし、固定報酬に加えてインセンティブが支払われること
  2. 同業以外の他社とも業務委託契約を締結できること
  3. 他事業や起業へのチャレンジができること

の3点といえますが、これらのメリットは雇用契約を維持して副業や兼業を容認しても享受できるはずです。

電通では副業や兼業を禁止しているそうですが、就業規則を改正すれば副業や兼業は可能となります。

ではなぜわざわざ副業や兼業の容認ではなく「個人事業主化」という選択をするのか?

そのあたりについて電通は明言していないものの、やはり「社会保険料負担の削減」と「残業の規制逃れ」が大きな理由なのではないかと私は推測しています。

「社会保険料負担の削減」について、給与から天引きされている健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料というのは通常、保険料総額の半分またはそれ以下で、もう半分またはそれ以上を企業が負担しています。

個人事業主化することによって、雇用という枠組みから外れるという建前になるので、これらの負担を軽減できるという思惑があるのでしょう。

「残業の規制逃れ」については、さすがは過去に過労死事件を起こした後も違法残業で労基署からの是正勧告を受けている会社だけはあるなという印象です。

とは言え、労働基準法上の残業規制という枠組みを超えてバリバリ働き、ガッツリ稼ぎたいという山っ気のある人がおそらくこの「個人事業主化」に手を挙げたのでしょうし、山っ気のある人が(勝手な推測ながら)世間一般よりも多いと思われる電通の企業風土には、この仕組みがもしかしたら合っているのかもしれません。

民間企業で事務関連職(事務・営業などいわゆるホワイトカラー)として勤めるイチ労働者が、”労働者のまま”労働基準法上における労働時間や割増賃金などの規制を外れるためには、現状、秘書になるか(労働基準法41条2項)労働基準法の改正により2019年4月からスタートした高度プロフェッショナル制度(高プロ)の適用対象者となるか(同法41条の2)くらいしかないのですが、実態として何百人もの人間が秘書になるのは現実的ではないし、営業・制作・間接部門は高プロの対象外(同法施行規則34条の2 3項)なので、電通の従業員が残業時間の規制を外れるためには、個人事業主となって一人親方化する、すなわち法的な意味での「労働者」でなくなるしかないわけです。

そういうところが、電通の狙いであり、またそのような時間にとらわれない働き方を希望する一部従業員と利害関係が一致したため、今回このような「電通らしい仕組み」ができたのだと思います。

 

個人事業主化は今後他社へも波及するか?

この個人事業主化の動きは、今後大企業を中心にちょこちょこ出てくると思いますが、社会のスタンダードになることはないと考えます。

この仕組みにおいて忘れてはならないのは、今回の対象となった従業員が個人事業主化を希望したためこの仕組みができるということです。

個人事業主化を希望していない従業員との雇用契約を一方的に解約して個人事業主化するのは解雇にほかならず、個人事業主化させたいから解雇するというのは法的に認めらないため、企業が一方的に従業員を個人事業主化させることはできません。

電通のように、労働基準法の保護を放棄してでもガッツリ働きたいという山っ気のある人が一定程度ある企業であればこのような仕組みが成立すると思いますが、他の企業ではそこまで多くないと思われることから、社会のスタンダードになるほど根付くことはないと考えます。

 

業務委託契約の法的要件

個人との業務委託契約というのは契約書に「業務委託契約」と記載されているから法的に認められるのではなく、判例で示されている法的な要件を満たさなければ、法的に雇用契約とみなされて労働基準法その他労働法の適用を受ける可能性が高いです(最三小判平24.2.21労判1043号5頁など)。

委託内容がその企業に雇用されている従業員の職務内容に近い内容の業務委託契約は、法的なハードルが高いと言えます。

詳細は私が以前出している動画で説明しているので、ぜひご覧ください。

 

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