↑↑↑
こちらの動画を観ながら読むとより読みやすいです
神戸の社会保険労務士・石川です。
先日、ウチのチャンネルの登録者数が1,000名を超えました。
ありがとうございます。
引き続き、有益な情報発信に努めますので、今後もよろしくお願いします。
さて、今回は、2020年4月からの民法改正に伴う人事労務分野における実務の変更点について、難しい法律的な用語を極力省いて、世界一わかりやすく解説したいと思います。
大きな変更点は3つ
はじめに結論から言うと、今回の民法改正ではさまざまな改正が行われますが、そのうち、人事労務分野において実務上大きな影響を及ぼす変更点は、
- 身元保証時の極度額設定
- 法定利率の見直し
- 賃金請求権の時効延長
の3つです。
以下、それぞれについて順番に解説していきます。
身元保証時の極度額設定
まず1つ目の変更点について、これを一言でいうと、「労働者が発生させた損害を家族などの保証人が補償する旨の取り決めをする場合は、保証の上限額を設定しないと取り決めが無効になる」という話です。
従業員を採用する際などに、「身元保証書」などを提出させている企業は少なくないと思います。
身元保証書の一般的な内容は、「保証人が従業員の身分を保証し、万が一従業員が企業に対して損害を発生させた場合は、保証人がその損失を補償する」というもので、その保証人として家族などのサインと押印をもらうケースが多いのではないかと思います。
そのため、身元保証書を提出してもらう行為は、一種の保証契約なのです。
よく聞く「借金の保証人になった」というような、特定の債務を保証する一般的な保証と違って、この身元保証書のような、「将来的に債務が発生するかどうかはわからないけど、一定期間、債務が発生したときはいっさいがっさい保証を引き受けてね」という内容の保証を「根保証」といいます。
これまで、金銭の貸し借りに関する保証契約以外は極度額を定めなくても有効だったのですが、極度額を定めないと保証人の負担が過度に大きくなってしまうという意見がありました。
そのような経緯から、今回の民法改正により、すべての根保証契約で極度額を定めないと無効ということになりました。
したがって、2020年4月以降は、採用にあたって身元保証書を提出してもらう場合、極度額を定めないと保証契約が無効となり、紙とインクの無駄遣いとなってしまうため、極度額を設定しましょう。
では、極度額としていくらを設定するかという話になると思います。
これは企業が各自で決めるべき金額ですし企業の実情によって変わるため、ここでメルクマールを決めるのは難しいですが、100万円以下ではそもそも保証をとる意味があるのかと思いますし、一方500万円や1,000万円となると金額が多すぎてせっかく入社しようと思ってくださっている従業員さんやそのご家族から不信感を抱かれやしないかと思いますので、私の考えでは300万円くらいが妥当なラインかな・・・と思います。
法定利息の見直し
続いて2つ目の変更点です。
これまで、民法上の法定利率は5%でしたが、近年の金利水準に比べて高すぎるとの声が多く挙がっていたため、今回の改正で3%を基準に、3年に1度改定される変動金利に見直されました。
同時に、商法における法定利率6%も廃止されるため、在職時における未払賃金にかかる利率は企業の形態を問わず、2020年4月以降3%となります(ちなみに、退職時における未払賃金の法定利率は、従前どおり賃金の支払の確保等に関する法律<賃確法>により14.6%で変更ありません)。
そして、この法定利率見直しはもう1つ大きな影響を与えます。
それは、「法定利率の引き下げによって、企業が労働者に支払う損害賠償額が増える」ということです。
たとえば、労災事故が発生し、従業員が大きな障害を負って働けなくなってしまったケースを想像してください。
このケースにおいて、企業が従業員の安全に配慮する義務を怠ったとして損害賠償を請求された場合、請求額には、その従業員が障害状態にならなければ将来得ることができたであろう収入(逸失利益)も含まれることが多いです。
ただし、実際に企業がこの逸失利益についても賠償するときは、本来なら将来貰う金銭を今貰うことになるため、将来の利益を現在の価値に引き直した金額を支払います。
引き直しにあたっては、一般的に法定利率による複利で割り戻して(減額する)計算するため、将来価値と期間が同じなら、割り戻す法定金利が低くなればなるほど、減額する金額が少なくなるため現在価値は増加します。

(出所)筆者作成
したがって、企業が労働者の将来的な逸失利益を賠償するケースにおいては、民法の法定利率の見直しにより、賠償額が増加する可能性が高くなるのです。
賃金請求権の時効延長
最後に時効の話をしますが、これは民法の改正ではなく労働基準法の改正によるものです。
ですが、その背景には民法の改正があります。
これまで、労働基準法において、未払賃金など賃金債権の時効は2年と定められていました。
なぜ2年かというと、改正前の民法で定められていた「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」の時効1年という規定を前提に、労働者保護の観点から期間を延ばしつつ、企業の負担が増加しすぎないようにという理由で2年に設定されたからなのですが、この「月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権」の時効1年という規定が廃止され、他の一般債権と同様、「権利を行使することができることを知ったときから5年、権利を行使することができるときから10年」となったことから、労働基準法の賃金債権に関する事項も改正されることになりました。
では何年になったかというと、民法に合わせて5年なのですが、企業の負担増を勘案して「当分の間は3年」となり、今後の状況をみて5年にするという段階的な延長となりました。
今回の民法改正によって、賠償額の増加、賃金債権の時効延長などを勘案して、より一層、職場の安全衛生管理や適切な労働環境整備が求められることとなります。
コメント