※本記事の内容は法改正前の内容であり、最新の制度については最新のテキストや日本年金機構のホームページなどでご確認ください
神戸の社会保険労務士・石川です。
このブログでは、社労士試験に関するテーマをほとんどとりあげませんが、先日公開した「特別支給の老齢厚生年金一発攻略法」記事が思いのほか好評だったため、今回も社労士試験の攻略法に関する記事を書こうと思います。
今回は、先日の「特別支給の老齢厚生年金」と同じ厚生年金保険法から、在職老齢年金をとりあげます。
在職老齢年金とは何かを一言で説明すると、「トータルの収入が一定以上ある人は充分生活できるだろうから、年金は一部カットさせてもらうね」ということで、国が年金額をカットするものです。
なぜ在職老齢年金かというと、近々YouTubeで在職老齢年金をとりあげようと思い調べていた際、「そういえば、社労士受験生時代は在職老齢年金の式を覚えるのにも苦労したなあ・・・」と当時の苦労を思い出したからです。
「特別支給の老齢厚生年金・一発攻略法」では公式を紹介しましたが、在職老齢年金はそもそも計算式を覚えるものなのでオリジナルの公式も何もありません。
在職老齢年金の攻略法は、「計算式の意味や考え方を理解すること」です。
在職老齢年金の難しいところは、計5パターンある計算式が微妙に似ていて、暗記しようとしても頭の中でごちゃごちゃになってしまうところだと思います。
それは、計算式の意味するところをあまり深く考えず丸暗記しようとするからであって、その計算式の意味や考え方を理解しておくと、計算式の記憶が多少曖昧でも正確に思い出すことができます。
この記事では、計5パターンの計算式における意味や考え方を文章で解説します。
65歳以上の在職老齢年金
在職老齢年金は大きく分けて、「65歳以上」と「60~64歳」の2パターンあり、65歳以上の在職老齢年金はすべて1つの式で計算されます。
カット月額=(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2
【計算式の意味】基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超えた場合、超過分の1/2をカット
※支給停止調整額:2019年度は47万円
上の文章から、カットされる部分を頭の中で図式化して覚えましょう。
60~64歳の在職老齢年金
現行法における60~64歳の在職老齢年金は、標準報酬月額や基本月額により4パターンに分かれます。
それぞれの意味と違いをみていきましょう。
ただ、下①~④の4パターンすべてに共通する考え方は、「支給停止調整開始額まではカットされない」ということです。
①総報酬月額相当額が支給停止調整変更額以下で基本月額が支給停止調整開始額以下の場合
カット月額=(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整開始額)÷2
【計算式の意味】基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整開始額を超えた場合、超過分の1/2をカット
※支給停止調整変更額:2019年度は47万円(以下同じ)
※支給停止調整開始額:2019年度は28万円(以下同じ)
65歳以上の計算式と非常に似ていますね。
違うのは、「支給停止調整額」か「支給停止調整開始額」かの違いだけです。
暗記することだけ考えれば、「65歳以上とほとんど同じ」と覚えれば、これだけでマスターできます。
計算式の意味を解説すると、上で挙げた「支給停止調整開始額まではカットされない」という考え方が表れた式です。
基本月額と総報酬月額相当額の合計額のうち、支給停止調整開始額まではカットされず、超過分の1/2がカットされます。
②総報酬月額相当額が支給停止調整変更額以下で基本月額が支給停止調整開始額超の場合
カット月額=総報酬月額相当額÷2
【計算式の意味】総報酬月額相当額の1/2をカット
なぜ総報酬月額相当額が超過していないのに、総報酬月額相当額の1/2がカットされるのかというと、「基本月額だけで1ヶ月の生活を最低限賄えるであろう金額(支給停止調整開始額)が得られているんだから、残りの賃金収入(総報酬月額相当額)は半分くらいカットしても生活できるでしょ?」ということです。
計算式に支給停止調整開始額の文字はありませんが、「支給停止調整開始額まではカットしない」という考え方は①と同じです。
③総報酬月額相当額が支給停止調整変更額超で基本月額が支給停止調整開始額以下の場合
カット月額=(支給停止調整変更額+基本月額-支給停止調整開始額)÷2+(総報酬月額相当額-支給停止調整変更額)
【計算式の意味】総報酬月額相当額のうち、支給停止調整変更額以下の部分は、基本月額の支給停止調整開始額との不足分を除いた1/2を、支給停止調整変更額を超える部分は全額をカット
このパターンが在職老齢年金の式のなかで最もややこしい式です。
ですが、この計算式は2つに分け、それぞれの意味をイメージするとすんなり理解できます。
ではどのように2つに分けるかというと、総報酬月額相当額を(A)支給停止調整変更額以下の部分と、(B)超過部分とで分けます。
まず(A)以下部分は、①②同様、支給停止調整開始額まではカットされません。
このケースにおいては、基本月額≦支給停止調整開始額なので、支給停止調整開始額に足りない部分はカットの対象から外され、残りの1/2がカットされます。
支給停止調整開始額に足りない部分がカットの対象から外されることで、支給停止調整開始額までが最低保証されます。
カットの対象はあくまで支給停止調整開始額以外の部分というわけです。
そして(B)超過部分については、「もともと総報酬月額相当額が支給停止調整変更額を超える高給取りなんだから、超過部分は全額カットしても生活に支障がないでしょ?」ということなのです。
ということで、この③においては、「支給停止調整変更額までの部分は支給停止調整開始額を超えた分の1/2がカットされ、支給停止調整変更額を超過した部分は全額カット」という2段階の考え方で理解しましょう。
④総報酬月額相当額が支給停止調整変更額超で基本月額が支給停止調整開始額超の場合
カット月額=支給停止調整変更額÷2+(総報酬月額相当額-支給停止調整変更額)
【計算式の意味】総報酬月額相当額のうち、支給停止調整変更額までの部分は1/2、支給停止調整変更額を超える部分は全額を最大でカット
このケースは、「総報酬月額相当額が支給停止調整変更額を、基本月額が支給停止調整開始額をそれぞれ超えるほどしっかり収入があるんだから、がっつりカットしても大丈夫だよね?」というものです。
仮に年金額が全額カットされたとしても、報酬が支給停止調整変更額を超えており、60代前半としては充分な報酬が得られているため問題ないとの考え方によります。
支給停止調整変更額(47万円)を超える収入があれば、当然ながら支給停止調整開始額(28万円)分の収入は確保されていますので、仮に年金額が全額カットされても、収入全体としては支給停止調整開始額分についてカットされていないわけです。
ややこしい在職老齢年金の計算式も、その意味と考え方を理解すると、頭に入りやすくなり、混乱する可能性が少なくなると思います。
よろしければ、ご参考までに。
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